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「ん?」
私の反応に感付いたであろう今里さんが、わざとらしく顔を寄せてくる。
そんな仕草も余裕があって、なんだか悔しい。
「……反則です」
「反則?」
「だから、そんな顔……ズルいです」
「そんな顔って、どんな顔?」
生まれつきこんな顔なんだけど。
今里さんはそう言って、楽しそうに破顔した。
「だから………」
私が困惑を隠さずにいると、ふと、今里さんの顔つきが凛と畏まる。
「これだけは伝えておくよ。オレはもう、幸のことを秘密になんかしたくないから。疚しいことも後ろめたいこともない。オレは、本気で幸が好きなんだから。だからもう、オレ達のこと、隠すのはもうやめよう――――」
秘密を、やめる………
その意味を、頭で置き換える。
つまり、私達のことを、私と今里さんが付き合ってるということを公にするということだ。
もちろん、さっきの今里さんの発言で、総務課にいた人達には知られてしまったわけだけど、それだけじゃなく、これからは会社中の人に知られてしまうということだ。
いや、きっと社内にはとどまらず、取引先、それに今里さんの古巣になる白華堂にも………
今里さんは注目を浴びる人だもの、きっと、噂はすごい速さで駆け抜けるに違いない。
しかも相手が、大学出たばかりの、何の取り柄もない私だなんて………
頭の中で順序だてて考えていると、いきなり今里さんに頬をつままれてしまった。
「こら。また何か考え込んでる。さっきも言ったけど、オレはもう幸とのこと隠さないからね。例え幸が嫌がっても、オレには幸っていう可愛くて仕方ない彼女がいるんだって、みんなに自慢したいんだ」
今里さんはそう言うと、すぐにパッと私の頬を離したけれど、私は、つままれた頬だけじゃなく、顔全部をドッと赤面させてしまった。
可愛くて仕方ないだなんて、ちょっと…いや、かなり、惚れた欲目である。
でも嫌な気分がしないものだから、余計に気恥ずかしい。
いや、嫌な気分どころか、むしろその真逆で、喜んでる自分もいたりする。
そんな自分の感情の振り幅を行ったり来たりしていると、ふと、思った。
今里さんは、いつもこうやって私に想いを伝えてくれる。
なのに私は………
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