歯ヲ齧ルの2

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「一緒にお風呂入ろ?」 「やだっ」 思わず口について出た言葉にプククと笑われる。 「べとべとだよ?」 唾液やら涙やら精液やら色々な汁でべたべただ。 「でもやだ」 「恥ずかしい? じゃあ急いでシャワーだけしてすぐ出るから待っててね」 ソウタさんはそう言って俺の頭を撫でて軽く額にキスして肩にふかふかの大きなタオルをぱさりと被せて風呂に向かう。 なんだか馴れ馴れしい? パタリと風呂の扉が閉められてソウタさんの声が消えて、1人部屋に取り残される。 急にしぼんでいく気持ちと体温、反比例するふかふかタオルの優しさ。 ……キストモってなに? 混乱する。 キス、したけど、全体的にはもうキスじゃない。いや、最後に擦られたけどそれ以外は舐めたり齧ったりキスだけと言えばキスだけだったのかな。 キスってなに? 訳がわからなくなる。これがゲシュタルトの崩壊とかいうやつ? 一緒に? いや、知らないし。あの人俺の痴態に興奮してたの? 前もそうだったといえばそうだった。あの満ち足りたような嬉しそうな笑顔を思い出す。急に妙になれなれしくなった気がする。なんなんだ? ソウタさんの中で俺は何かの一線を超えたのか? そんな印象。でもそれが何かわからない。怖くて落ち着かない。 なんかもう嫌。されるがままになってる。すごく落ち込む。自暴自棄な気分。そんなこと考えているとソウタさんが風呂から出てきた。 目隠しされてたし歯以外は頭から吹っ飛んでたけど、どう見ても男だ。しかもスタイルよくて超モテそう。……でも素敵とかじゃなくて僻むってことは恋愛感情はないってことでいいんだよな? 自分の認識にちょっとだけ落ち着いた。最近心は俺の敵に回りがちな気がする。 「お風呂どうぞ?」 服とタオルを持ってすごすごと風呂に向かう。 ふわふわした湯気でいっぱいでなんだかいい匂いがするけど、気持ちは暗くて混乱したまま。とりあえず手早くシャワー浴びよう。そう思って渡されたタオルにボディソープをつけて体を洗う。 しつこく齧られたとこ、顎と鎖骨と上の方の骨盤、腸骨っていってたっけ、そこがヒリヒリする。唾液とかいっぱいついてそう。そう思ってゴシゴシしてたら、なんだか思い出してしまった。 鏡を見ると鎖骨がキスマークみたいに赤くなっている。なんとなくどきどきして触ると歯が思い浮かんだ。さっきまで暗闇で生々しく頭の中に思い描かれていたあの歯が再びくっきり頭に浮かんで背筋が急にぞくりとした。 ふっ。 あれ? さっきイったばっかなのに?  齧られたところをそっと触っていると、齧られた感覚がじわりと体、それから全身に広がっていく。おかしい。なんか、もやもやする。 頭に明瞭に浮かぶ写真の歯。ここのところ家でやってるみたいに下半身に自然に手が伸びる。や、だめ。さすがに。 なんだこれ、頭の中がおかしい。体にあたるシャワーの暖かさと刺激のせいか、体中を齧られた感覚が急にいっぺんに全身に浮かんでぞわぞわ震える。色んなものが頭の処理能力を超える。熱を持つ鎖骨が甘い。ここから呪われているみたいな、体の奥底に深く刺さった存在感。頭がぽやぽやする。体に力が入らない。あれ、おかしいな? 床が……近い……。
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