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気がついたらベッドで寝ていた。
なんだっけ。体を起こそうとしたらそっと肩に手をかけられて止められた。
そちらを見るとソウタさんが心配そうにこちらを見ていた。
?? 頭がぼんやりする。
「俺、どうして?」
「よかった、お風呂遅いと思ったら倒れてて」
そういえばさっきまでお風呂にいた気がする。
「倒れてた?」
「うん、ほんとごめん。無茶しすぎた。多分貧血と疲労?」
「貧血?」
「そう、だからもう少しゆっくり寝てて。喉渇いた?」
傍らのペットボトルから液体がグラスに注がれる。塩分チャージのやつ。
「常温であんま美味しくないかもだけど、冷えてるのよりいいから」
体に染み込む水分が気持ちいい。ふぅ、人心地着いた感じ。ううん、まだちょっと頭痛いかな。
「しばらく安静にしててね? ……俺離れてた方がいいかな」
「? なんで?」
「なんでって……」
ソウタさんはちょっと目を瞬かせてから大きく息を吐き、安心したように俺を見る。
「よかった。てっきり嫌われたと思った。よく考えたら風呂入る前の様子おかしかった気がするし、冷静に考えると嫌われるくらいのことはした気がする。すごい安心した。身勝手だよね、ごめん」
「……ソウタさん自体は嫌いになる程好きなわけでもなくて」
自分でもわけのわからないことを言ってるなと思っていたらソウタさんは苦笑した。歯が少し見えて無意識に鎖骨を触る。するとソウタさんは顔をしかめた。
「痛い? 跡になっちゃった。ほんとにごめん」
……。なんかやっぱり頭がぼんやりする。やっぱり貧血なのかな? 貧血ってなったことないからよくわからないけど。
「もう少し休んでおいた方がいいかも。寝てな?」
「うん」
「なんかしてほしいことある?」
「……歯を齧らせて」
ソウタさんの困惑する顔。でも俺はここにキスしにきたはず。
「まだ見ながらキスしてない」
「……ほんとぶれないね」
今までになく、恐る恐る唇が近づいてくる。舌を伸ばして歯を舐める。
奇麗な歯。今日この部屋に来て初めて直近で見る。やっぱりすごく奇麗だな。写真とは違って立体だ。そっと指を入れて開く。やっぱりいい。奇麗。高さと幅と奥行きがある。写真より生がいい。
「口を開けといてもらっててもいいかな」
「もちろん」
大きく開けられた歯。俺の好きにしていい歯。いい。
指で触る。凹凸はあるけど虫歯や欠けは何もない。歯列も奇麗なU字形に並んでいる。どうしてこんなに奇麗な歯が存在するんだろう。幾何学模様みたいだ。
舌を伸ばして歯の表面を舐める。つるつるしてる。あの歯に触れて、舐めてる。舌が痺れる。歯で歯を挟んで齧る。カチカチする。幸せ。
今日はソウタさんの舌が入ってこない。別に入ってきてもいいんだけど。でもなんだろ、この一方的に舐めてる感じは初めてソウタさんより優位に立ててるみたいでちょっといい気分。
じわりと鎖骨が熱くなる。ずるい。俺の鎖骨はソウタさんのだって印がついたみたいだ。俺もなんか仕返しがしたい。俺の歯だっていう印。……でも歯に印って無理。仮にできたとしてもこの完璧な歯をいじったりなんて出来ない。ほんとにずるい。
あたまがぼんやりする。本当にこの歯が好き。この歯になら食べられてもいいくらい。うーん、あれ?
「ヒロ!? 大丈夫?」
うん? 心配そうなソウタさんの顔。あれ? 俺また倒れてたのか。なんか体の調子がおかしいな。
「ほんと、ちょっと休んだ方がいい」
「……うん、わかった。おやすみ」
チュッと柔らかく額をキスされて、俺はゆっくり意識を手放した。
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