うすぐもり

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うすぐもり

斜め前の席の()が、ペンケースに寄り掛からせたスマホで熱心に、K-POPグループのライブ動画を見ていた。 下ろした髪に隠れて見えないけど、耳にはワイヤレスイヤホンをはめているのだろう。頭を軽く前後に揺らして、リズムに乗っていた。 いかにも韓国男子な赤髪のメンバーがアップになるたびに、カチカチとスクリーンショットを撮っている。 かっこいいと思う気持ちはわからなくもない。でも、派手すぎて私の好みではない。 真ん中の列の、一番後ろ。 この席はクラスの様子が観察できて、なかなか楽しい。 「みなさん今回の漢字テスト、ちゃんと勉強しなかったでしょう?ワタシ、採点しながら頭が痛くなってしまいましたよ。二年生になってからだらけていません?このままだと来年も、そして大学生になってからも……」 現代文の小柄なメガネの先生が、教卓の前でグチグチ文句を言っている。 六時間目特有のけだるさに加えてお説教がきてしまい、教室の空気は重ったるい。 この調子だと、今日は授業をやらずに雑談で終わりそうだ。そう思い、広げていた現代文のノートと国語の便覧を閉じた。続けて机の中に入れていたスマホを取り出し、ボイスレコーダーアプリを停止させる。 あの先生(あだ名はバズ)は早口なうえに板書をあまりしないから、録音が欠かせない。 両手を持て余してしまい、折り畳んで七分袖にしていたワイシャツの袖を意味もなく戻した。 今日はちょっとだけ肌寒い。膝よりも数センチ上のスカートと、くるぶし丈のソックスのあいだの素肌がスースーする。 七月の前半はまだ梅雨も明けておらず、本格的な夏には遠い。今日は珍しく、雨が降っていないことが救いだ。
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