01

8/9
前へ
/9ページ
次へ
 そんな俺は、しばらく生きる気力を失っていた。  だが、ある時、一人の少女に出会って目が覚める思いをした。  それは大きくなった孤児院の者達が想いを実らせ、結ばれてできた子供だった。 「父さんと母さんがすごいと言っていた英雄に戻って」  その言葉に頬を叩かれた俺は、もう一度立ち上がる。  そして、その子供がお世話になっていた村を助けることになった。  その村は盗賊の根城にされて、支配されているらしい。  俺はすぐさま、盗賊達の元へ向かった。  しかし、そこで見たのは、幼い頃に出会った養子の少女だった。  結局父と母から見捨てられたその少女は、堕ちぶれてしまい、盗賊に身をやつしていたのだった。  俺は盗賊の拠点を壊滅させて、彼女に手を差し出した。  孤児院の者達は、たくさん亡くなった。  残ったのは、彼らが必死の思いで逃がした、一人の少女だけだった。  少女が生きていてくれた事は嬉しい。  けれど、それでも喪失によって開いた、胸の穴は埋まらなかった。  だから、これ以上知っている人間を失いたくなかった。 「どうして、私などに手を差し伸べるのですか。父と母に見限れた時、私が伸ばした手を誰もとってくれなかった」  その言葉を聞いて、ようやく俺は腑に落ちた。  自分の行動の、真の理由に、  彼女はあの日の、孤独になった日の俺と同じだったのだ。 「理由なんてない、才能があってもなくても、富める者でもそうでなくても、そんな目をした誰かに死んでほしくないんだ」  その日、堕ちた天才は汚名を返上し、かつての英雄が生き返った。  俺達の前には、様々な困難か押し寄せ、様々な災難が発生したが、  孤児院の者達に与えられた何にも代えられない力……俺の世界を変えてくれた贈り物、「誰かと手をつなぐ強さ」を携えて、その全てを解決していった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加