三巻王子とトースト娘

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 その日は気になったままそれぞれの漫画を二巻まで読んで我慢した。  退屈な平日の学校生活を過ごし、日曜日になった。 「あれ、またない……」  これはおかしい。複数の漫画の三巻だけが無いなんて変だ。 「汚れが酷かったとか?」  お店側の事情かもしれないと考えたが三巻だけというのが分からない。  うーん……と本棚の前で一人考えていると、 「そこ、どいてもらえる?」  男の人の声が後ろから私宛にかけられたのでびっくりした。 「えっ? ああ、どうぞ……」 「どうも」  私が本棚の前から退くと男は本棚の各漫画に手を伸ばす。  一つの漫画につき一冊ずつ手に取っているのでそれなら少しの種類に絞って何巻か持っていけばいいのに。  余計なお世話なことを考えながら何となく男の腕に挟まれる漫画の束を見る。  すると驚くことに先週からの謎が解決した。  男の腕の中に収まっている漫画は全て三巻と表記されていた。 「あなたが三巻ばっかり借りてたの!?」 「? そうだけど」  思わず声をかけてしまった。 「私の気になる漫画がどれも三巻だけなくて困ってたんです」 「ああ、そうなんだ」  どの漫画? と聞かれたのでタイトルを答えるとぽいぽいと男は漫画を渡して「じゃ」と自室へ戻ろうとしたので肩を掴む。 「いや、そうじゃないでしょ! 他の人も困ると思うから止めなよ」 「店員じゃないのになんで注意するんだよ……お節介なんだよトースト娘」 「トースト娘って私のこと?」 「いつもモーニングサービスに滑りこんでるの見かけるから。部屋も角んとこって知ってるし、俺毎日ここに居るんで」  常連に顔を覚えられてた。  しかも、いつも居るってこの人どういう人なんだろう。もしかして危ない人に注意しちゃった? 誘拐? 誘拐とかされないよね……?  でもここで引き下がれば恐怖に負けて逃げたようになってしまう。  そんな豆粒みたいに小さなプライドにかけて私はもう一度立ち向かった。 「そんな個人情報なんて全然怖くないから。それより、どうして三巻だけ抜くなんて困るようなことするの?」  男ははぁー、と肩に置かれた私の手を振り払う。  面倒なことになったと顔に思いっきり書いてある。 「こっち俺の部屋だから、来い。そこで説明してやる」 「えっ!? やっぱ誘拐するの」 「誰がお前みたいなちんちくりんな小学生誘拐するか」 「失礼ね、私は高校生よっ」
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