三巻王子とトースト娘

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「お父さん早く!」 「そんな慌てるなって……」  日曜日の朝。  十時のモーニングサービスに間に合うように今日も私は大慌てでいつもの漫画喫茶へ向かう。  相変わらず私は憩いの場である漫画喫茶へは通い詰めている。  ちょっと違うのは父と一緒に行くようになったこと。 「お父さんがいるからお小遣い削減になっていいや」 「そんなお前、自分の父親を銀行みたいに……」  そんなやり取りを見て母が頬笑む。  いってきまーす! と見送る母に手を振って私たちは家を出る。  あれから私は自分の正直な気持ちを両親に話した。  喧嘩の声が毎朝聞こえて辛かったこと。  居場所として逃げるように漫画喫茶に入り浸っていたこと。  両親は娘の苦悩に気づかなかったことを反省し、私に謝ってくれた。  それから喧嘩はピタリとなくなった。  ちなみに喧嘩の内容だが、どうやら私の進路についての話だったらしい。  喧嘩の原因がまさかの私で面食らった。  父も母も私のことを何とも思っていないと私は誤解していた。  やっぱり、自分の気持ちを伝えることは大事なんだね、先生。  漫画喫茶に着くと私は少年漫画が置かれているコーナーを確認する。  そこには沢渡巡と作者名が記された漫画が並んでいる。 「面白さは三巻で決まる、か」  お手並み拝見といきましょうか。  私はその漫画の三巻に手を伸ばした。
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