匂いという名の魔物

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「そうそう、その朔ちゃんが、しばらく実家に帰ってくるんだって。 何だか今のオフィスを新しくリフォームするため二か月くらい住むところがなくて、だから、荷物ごと実家に帰ってきたって」 お母さんの口ぶりはまるで朔太郎と話したみたい。 「お母さん、朔太郎と話したの?」 「そうよ。 昨日、美味しそうなお菓子を持ってここへ挨拶に来てくれたの。 朔ちゃんは何も変わってない。まだ高校生みたいに見えちゃうくらい可愛らしかった。 晴美は?って聞くから、そこの市役所で働いてるって教えてあげた。 よかったでしょ? だって、ちっちゃな時から遊んでる幼なじみだもんね」 私は力なく頷いて、残っているご飯を慌てて口に放り込んだ。 朝の貴重な時間にお母さんとゆっくり話している暇はない。 でも、お母さんの顔を見ていると、朔太郎の可愛らしい笑顔が脳裏に浮かんできた。 お母さんは子供の頃から朔太郎が大好き。 朔太郎が私に優しかったというのもあるし、それ以上にジャニーズ大好きなお母さんのツボに入るくらいの可愛らしい顔を朔太郎がしていたから。
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