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とりあえずこのままではタクシーに乗る事もできないので濡らしたハンカチで拭き汚れを軽く落とした。
そして、眠ったままの志摩をなんとかタクシーに乗せた。
志摩の鞄をあさりなんとか住所を調べ運転手に行先を告げる。
汚れは拭いたもののゲ〇の匂いがなくなるわけもなく、車内はすえた匂いが充満している。
運転手はたまったもんじゃないだろう。心の中で何度も謝り運賃は多めに支払った。
タクシーから降り、まだ意識のない志摩を支えマンションの部屋の前まで連れて行く。
「志摩さん、ほら家に着きましたよ。起きてください」
何度も声をかけ起こそうとするがまったく起きる気配がない。
仕方ない、また鞄あさって鍵を探すか…と思っていると、志摩の部屋のドアが開き、中から若い男が出てきた。
細身のまだあどけなさが残る顔立ちのイケメンだった。
大学生くらいか…?
俺がその男の出現に固まっていると、その男は俺を頭のてっぺんから足の先まで舐めるように見ていた。
不躾な視線ではあるがこんな状態で目の前に現れたらそうなってしまうのも仕方ないのかもしれない。
目の前の男が志摩とどういう関係なのかは分からないがこちらは礼を尽くさねば志摩の顔をつぶしてしまうかもしれない。
「えと、失礼しました。私は志摩さんの部下の三木志朗といいます。一緒に飲んでいたら酔いつぶれられて送って来たのですが…」
「―――一緒に飲んで…?そう、ですか。うちの涼くんがご迷惑をおかけしたようで、すみませんでした。ほら、涼くん、起きてっ」
そう言うと俺から志摩を奪い取った。
「んぁ?しず…?」
俺が何度声かけても目を覚まさなかったのに、この男が声をかけたら起きるのか…。
胸に少しもやっとしたものが生まれた。
「もう、大丈夫なんで、三木さん気を付けてお帰り下さいね」
男は志摩をしっかりと抱き込み笑顔で言った。
「あ…はい。では、失礼します…」
「涼くん」「しず」だなんて呼び合っている仲で、随分と親しい間柄のようだ。
恋人……?
同棲してる…?
帰りのタクシーの中、そんな事ばかり考えて俺には関係ないはずなのにいつまでも心がざわざわと落ち着かなかった。
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