三木志朗の受難

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お互いに忙しい身なので、あの飲み会から会社で志摩に会えたのは三日後の事だった。 会えない間俺は志摩について考えた。 俺はなぜ志摩とキスをしてしまったのか。 なぜその先を求めようとしてしまったのか。 なぜ男の出現にもやもやとしてしまったのか。 考えて考えて考えて、ようやく出た答えは、志摩の事を好きになり始めていた、という事だった。 俺の心のごまかしを唯一気づいてくれた人。 長年の片想いを忘れさせてくれそうな人。 「志摩さん、あれから大丈夫でしたか?」 「あぁ、すまないね。大分迷惑をかけてしまったようだ。恥ずかしい事に記憶はないんだが静流(しずる)から聞いたよ。酔いつぶれた私をキミが送ってくれたんだってね」 静流。しず、あの青年の事だろう。 「いえ、ですがあまりお酒はお強くないようなので今後は気を付けられた方がいいと思います」 ただでさえ綺麗な顔をしているのに酔って色気まで出てしまっては非常に危ない。 俺が思わずキスをしてしまったように居合わせた男に襲われてしまうかもしれない。 志摩には恋人がいるのに、リバースしなかったらそのまま……どうなっていたか分からない。 俺はそういうのは好きじゃない。 もう恋なんてできないと思っていたのに芽生えた新しい恋だったが、出来上がっている関係を壊してまで手に入れたいとも思わないし、手に入れるべきじゃない。 志摩が覚えていないのならあえて告げる事もないし、俺たちの間には何もなかった。それでいい。 もうしばらく恋はいいな。 自覚して消えた二度目の恋は思いのほか辛いものだった。
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