三木志朗の受難

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「三木」 振り返ると志摩が立っていた。 「し…志摩さんも休憩、ですか?」 口角を上げ不自然にならないような笑顔を作る。 志摩はそれを見て眉間に皺を寄せた。 あぁ、この人にはバレちゃうんだったか。 今度は隠す事なく溜め息をつく。 「悩みでもあるのか?私でよければ相談にのるぞ?」 無表情のはずなのに少し心配そうに見える。 そう見えるのは俺の願望か。 「いえ…。ちょっと疲れただけですよ」 無理に笑う事はしないが口では嘘をつく。 認めなければ灰色で(疑わしく)あっても(真実)にはならないから。 「先日私は、お前は気持ちを隠すのがうまい、と言ったな。私以外気づいていない、とも」 「はい…」 「それは、私もそうだからだ。私は気持ちを隠すのがお前よりもうまい」 「?」 何を言いたいのか戸惑っていると、 志摩の綺麗な顔が近づいてきて、あ!と思った時には唇が俺の唇に触れていた。 「え」 突然の事に硬直する俺。 無表情のはずの志摩は頬を薄っすらと朱に染めはにかむように笑った。 どきどきどきどきどき。 心臓が煩くて何も聞こえない。 志摩の唇が「す・き・だ」と動く。 ぶわりと顔が真っ赤になるのが分かった。 「あ…あの……あの……!」 「三木は、私の事…どう思ってる?」 「いや、だって…静流くん…は?」 一瞬ぽかんとした顔をする志摩。 志摩のその反応に俺の方がぽかんとなる。 「しずは、静流は弟だけど…?私との付き合いに弟の許可が……?」 「お…とう、と…?」 「年は離れているが血の繋がった弟だ。あ…私を送ってくれた時に何か失礼な事でも?あいつはちょっとイタズラ好きで困る」 「あ、いえ。何も」 弟…。 じゃあこの恋は終わらせなくていいのか。 「あは…」 滲んできた涙を誤魔化すように声を上げて笑った。
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