87人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
長年片想いしていた相手に振られた。
「俺とお前は一生のともだちだ」なんて恰好つけてはみたもののそんなにすぐ気持ちを割り切れたら苦労はしない。
気が付けば未だに日下の姿を目で追ってしまっている。
日下の事は正直今でも好きだ。
でもだからって今更二人の仲を邪魔しようなんて気はないし、二人の幸せを心から願っている。
本心から自分は友人でいいと思っている。
思ってはいるんだが、それと気持ちの切り替えについてはまた別の話だ。
溜め息が零れる。
「三木、今日定時で終わりそうなんだ。よかったら飲みに行かないか?」
声をかけてきたのは、上司の志摩涼介だ。
年齢は36歳。俺の6つ上だ。
周りのこの人に対する評価は、他人に厳しく自分にも厳しい人。
仕事はできるが不愛想。
無表情で部下を叱るもんだから美人な見た目も手伝って『クールビューティ』なんて不名誉なあだ名まである。
だから個人的に飲みに誘われるなんて思ってもみなかった。
この人と二人で酒を酌み交わすなんて想像もつかない。
まぁでも。
ちらりと日下を見る。
そわそわと帰り支度をしていた。鼻歌まで出てきそうな雰囲気だ。
あぁ、多岐とこれからデートか。
苦笑いが漏れる。
「――――俺でよければ、ぜひ行きましょう」
俺は笑顔で志摩にそう返事をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!