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瞬きをした途端、九条の瞳から大粒の涙がこぼれた。
「──……は、い……。こちらこそ、よろしく、お願いします……っ」
広瀬さんはすっと立ち上がると、握っていた九条の左手の薬指に軽く唇を落とした。九条の頬がふわあっと桜色に染まる。広瀬さんは愛おしげに目を優しくたわめると、恋人をそっと抱きしめた……。
っていうことが、俺のすぐ目の前で展開された。
ちょっ、えっ、俺、何で今ここにいんの? いや、確かに、九条と話をするって断りは入れられたけど! 別に、二人きりにしてくれとは言われなかった。だろ? 何? これは見せつけられてんの? それとも俺の存在、忘れられてる?
もはや身動きしてもいいのかもわからない状態で俺が立ち竦んでいると、ゆっくりと九条を腕の中から解放した広瀬さんと、不意に目が合った。あまりの気まずさに言葉も出ない俺を見て、広瀬さんが不思議そうに小さく首を傾げる。
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