猫の王様 ~EP.1 中井くんと猫の王様の話~

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「……おい、九条。ちょっと広瀬さん借りるぞ」 「えっ?」 「いっすよね?」  俺が目の前の無表情を挑戦的に見上げると、全てを理解したように広瀬さんが頷いた。 「わかった」 「えっ、ちょっ、えっ……」  戸惑う友人に、キャリーバッグの乗った後ろのベンチを指さし、俺は言った。 「九条はそこで猫と遊んでて」  そして俺が再び広瀬さんに目をやると、無言で頷く。オッケーオッケー。話が早い。 「じゃ、そゆことで。お前はおとなしくそこで待ってろ」 「えええええ……」  不満げな友人をそこに残し、俺は広瀬さんを伴ったまま公園の広い遊歩道を横切ると、九条とは斜め向かいのベンチに座った。少し間をあけ、隣に広瀬さんが腰かける。九条と猫の様子は見えるが、普通に話す分には声が届かない、絶妙な距離感だ。九条は不貞腐れた顔でこちらを見ていたが、広瀬さんがキャリーバッグを示すと、文句を言いたいのに顔が緩んでしまうのを止められずに悔しい、といった複雑な表情で子猫を抱いた。 「……一応、最初に言っておきますけど。俺、九条に対して恋愛感情とか、一切ないんで」
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