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「……おい、九条。ちょっと広瀬さん借りるぞ」
「えっ?」
「いっすよね?」
俺が目の前の無表情を挑戦的に見上げると、全てを理解したように広瀬さんが頷いた。
「わかった」
「えっ、ちょっ、えっ……」
戸惑う友人に、キャリーバッグの乗った後ろのベンチを指さし、俺は言った。
「九条はそこで猫と遊んでて」
そして俺が再び広瀬さんに目をやると、無言で頷く。オッケーオッケー。話が早い。
「じゃ、そゆことで。お前はおとなしくそこで待ってろ」
「えええええ……」
不満げな友人をそこに残し、俺は広瀬さんを伴ったまま公園の広い遊歩道を横切ると、九条とは斜め向かいのベンチに座った。少し間をあけ、隣に広瀬さんが腰かける。九条と猫の様子は見えるが、普通に話す分には声が届かない、絶妙な距離感だ。九条は不貞腐れた顔でこちらを見ていたが、広瀬さんがキャリーバッグを示すと、文句を言いたいのに顔が緩んでしまうのを止められずに悔しい、といった複雑な表情で子猫を抱いた。
「……一応、最初に言っておきますけど。俺、九条に対して恋愛感情とか、一切ないんで」
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