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「俺は昨日、君のことを人間扱いした。喫茶店にいる客、オーナー、もちろん九条くんのこともだ。大勢の人間の相手をしなければならないあの場で、一人だけ特別扱いすることはできない。何故なら、俺にとっての人間とは、物理的にも精神的にも、全力で回避する対象だからだ。笑顔も、聞こえのいい言葉も、優しい態度も、俺にとっては他人から適切な距離を取るための、ただの防御壁に過ぎない」
俺は耳から入ってきた、冷徹ともいえるこいつの人間観をゆっくりと吟味した。人間嫌いにとっての人間扱いとは、全力での拒絶、というわけか。喫茶店での柔和な接客には、俺も微笑みの壁みたいなものを感じていた。逆説的ではあるが、本質的な話をすれば、この人が人当たりの良い態度を取らないほうが、つまり人間扱いされないほうが好意的だということだ。まるで言葉遊びだな。
「……それじゃあ、どうして今、俺にその聞こえのいい言葉を使わないんですか? 気づいてると思いますけど、俺はどっちかっていうと、あんたのこと、あんまよく思ってないんで」
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