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   その日、ゲームセンター『Sunny Heart』に出勤したコウタは、昨日のうちに運び込まれたという新しいゲーム機を見て、大声をあげた。 「店長! てんちょーってば!」  開店30分前のゲームセンターはほとんどの筐体の電源が入っており、どこもかしこもやかましい。たとえコウタが絶叫に近い大声をあげたとしても5m先にも届かない。 「どこいるんすか!」  狭いはずの店内も、この日ばかりは広く感じる。従業員の控室まで探しても見つからず館内放送まで考えた時、ようやくトイレから出てくるのを発見した! 「あれ、どうしたの? そんなに慌てて」 「どうしたのじゃないっすよ! アレ、なんなんすか!」  アレってなんだい? とぼんやりしている店長の腕を引っ張り、問題のある筐体の前に連れて行く。掴んでない方の腕で、ネーム看板を指さした。 「ほらあれ! 『タンス タンス エボリューション』って、名前が間違ってますよ!」  正しくは『ダンス ダンス レボ……』である。誤植だとしたら大問題だ。 (ああ、てか、そんなことはどうでもいい!)  ともかく早く直さないと。開店まであと10分を切っている。だが、焦るコウタとは裏腹に、店長は暢気だった。「ああ、これ。間違ってないから」 「はあ?」 「これで正解なんだよ。『タンス タンス エボリューション』。あなたの箪笥を踊って進化させましょう! ってね」  店長がステップをふむ。今年40になる店長のステップは軽快なものの、いささか古かった。が、そんなことコウタはどうでもよい。 (……だとしたらこれ、パチモンじゃね?) 「というかこれ、流行ったの何年前だよ」  コウタの呟きは、ゲーム機の騒音に紛れて聞こえなかったらしく。 「さあ! 今日も頑張ろうね!」  店長が、それに負けないくらいの大声で叫んだ。
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