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ーー 2 ーー
「うわッ、懐かしッ!」
『タンス タンス エボリューション』に初めて興味を持つ者が現れたのは、お昼を回った時であった。常連の男性3人。同じ会社の社員らしく、お昼の帰りにゲームセンターに寄っては一つや二つ、対戦ゲームをして楽しんでいる。
「コウタくん、これ新しいやつ?」
3人の中で一番若いヤマテが訊いた。コウタも誰かプレイしてくれないかと、このゲーム機の周りをウロウロしていたのだ。顔馴染みであるためコウタも気軽に話しかける。
「今日から入ったんですよ。店長イチオシ」
「懐かしいねー、俺たちは絶頂期だったよ、この『ダンス ダン……』いや、違う、なんだこれ? ちょっと、コウタくん、これ間違ってるよ」
ネームに気がついた3人が思い切り吹き出した。コウタも苦笑いが止まらない。
「それ、間違いじゃないらしいんでしよ。それで正解見たいです。踊って箪笥を進化させましょう、って」
「なにそれ、すげー胡散臭えじゃん」
「おれもそう思ったんですが、店長がノリノリで……あ、でも! ゲームとしてはちゃんとしてるみたいなんで、よかったらどうですか? 一人でもできるみたいですし」
本気でコウタが呆れているのを見て、3人は笑えなくなったようだ。本気で同情寄りになってくるのをコウタが慌てて引き戻す。
「じゃあ……せっかくだから、やろうかな」
言い出しっぺであるヤマテが財布を取り出した。
ゲームのプレイゾーンである3×3のパネルの上に乗るとディスプレイに文字が現れた。表示されている文字をヤマテが読み上げていく。
「一回300円。それに……進化させたい箪笥をセットしてください? なあ、やっぱこれ、箪笥いるの?」
とりあえず300円を入れてみるも『タンスをセットしてね』の文字が消えず、先に進まない。
「箪笥ってどこに入れんの?」
3人の中で唯一メガネをかけたサクモトが訊く。
「ああ、それなら」とやっと答えられそうな質問がきて、コウタは指を向けた。ゲームの筐体の脇に試着室程度の四角い箱があり、音楽に合わせてピカピカ光っている。今は正面の扉が開いており、その中に箪笥を入れるのだろうと想像できた。
胡散臭そうに4人がそれを見ていると、時間切れなのか300円が返却されてくる。
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