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「なあ箪笥……あるか?」300円を手のひらでチャリチャリ鳴らしながらヤマテが言った。 「やるのかよ!」 「一回だけよ、サクモト。話のネタにはなるだろ」 「まあ、そうだけど。箪笥なんて、今はないよ」 「だよなあ、そうそう都合よくーー」 「なんでもいいならあるよ」  まじで! コウタも含め3人が叫んだ。持っていると言ったヅイは財布についている箪笥……を模したキーホルダーを、3人の顔の前に持っていく。 「これだって立派な箪笥だろ?」 「いや、形だけじゃん!」  サイコロのような四角い木工細工だった。上下に一段ずつ引き出しがついているが、あくまでも形だけのものなので開くようなギミックはない。  これ使っていいよ、とヅイが財布から外し、筐体の中に置こうとする。コウタはおずおずと手を挙げた。 「あの……大変言い難いんですが」 「あれ? やっぱりこれじゃだめ」 「そうじゃなくて、これ、ゲームに失敗するとなくなっちゃうみたいなんです」  筐体のわきにある注意書きにしっかりと書いてある。  ひとつ、ゲーム開始後、この扉は閉まり、以降ゲーム終了まで開かないこと。  ひとつ、ゲーム開始時に設定された点数以上を取った場合、ゲームクリアとなってタンスは進化するが、点数以下である場合タンスは消滅してしまうこと。  ひとつ、一度進化したタンスは、二度は進化できないこと。  注意事項を確認し終えたヤマテが聞いた。「消滅って、やっぱやめるか? ズイ」 「いや、ただのキーホルダーだし、なくなっても構わないからやってみてよ。ここまでくると、どうなるか興味ある」  ゲームに必要不可欠である箪笥まで出てくると、結末を見届けたくなってくるものだ。一度は箪笥の持ち主であるズイがゲームをやるかという流れにもなったが、全くセンスがないと言うことだったのでやはり最初に反応したヤマテがやることになった。  300円入れ、ゲームが開始される。キーホルダーを入れた筐体の扉がしまって、ゲーム画面に『1000000』と言う数字が表示された。 「百万。これを超えろってことか」  音楽が鳴り始め、ゲームが開始する。
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