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ーー 4 ーー
その日、連日のように賑わっている『タンス タンス エボリューション』の前に、一際大仰な格好をした男性が現れた。
黒服の大男が3人。ラグビーでもやっていたのか全員体が大きく、スーツを破らんばかりに筋肉が己を主張している。そして、その3人に守られるようにして、一人、箪笥を抱える小柄な男性がいた。
とてもゲームセンターにくるような人には見えない。だが、箪笥を抱え、ここにきたということは目的はひとつしかない。自然と人混みが割れ、その筐体への道ができた。
まっすぐ先にある、それを指さし、大男の一人がいう。
「アサネ会長、あちらです」
「あれがそうか」
小さな声だったのに周りのゲーム音にかき消されず、朝からずっとゲーム機の番をしていたコウタの耳にもしっかりと届いた。
「あの……」
「それが、箪笥を修理するという摩訶不思議な機械か?」
「修理? いえ、これは進化させるだけで……いや、修理もするのかな?」
「なんでもいい。とにかく、使わせてもらおう」
「え? いや順番を守って頂かなくては」と言いかけたところで、順番待ちをしている人がいないことに気が付く。あまりの威圧に全員引いてしまっているのだ。
(この人がいなくならないと、再開は難しそうだ)
そう思ったコウタは先にやらせることにした。
「じゃあ……えっと、その古い箪笥を進化するんですね?」
「古いとはなんだ!」
「す、すいません!」
突然怒鳴られ、コウタは思わず謝ってしまった。アサネが唾を吐きながらコウタに力説する。
「これはかの卑弥呼が愛用していた、世界でも最古と言われる箪笥なのだ! そのへんの安物と一緒にするでない!」
「ひ……卑弥呼?」
箪笥ってそんな昔からあったのか? さあ? と言う会話が聞こえたが、幸いにも頭に血が上っているアサネの耳には届かなかった。
「先祖代々大事に、それは大事にしていたのだが……見よ!」
箪笥の背をコウタに見せつける。焦茶色の綺麗な木目をした背面に、大きな亀裂が一本走っていた。
「先日、いつものように大事に愛でていたときに……急に鼻がかゆくなり、くしゃみをしらら……ううッ……」
落としたのか。というか箪笥を愛でるってなに? と言う会話が聞こえたが、鼻を啜る音に紛れてアサネには聞こえていないようだった。
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