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平安貴族かコスプレか。
浅葱の狩衣、生成の指抜、漆塗りの浅沓。
艶のある黒髪を長く背に流し、目は赤いLEDかと思うほど闇夜に輝く。
そんな男が、人っ子一人いない深夜の境内を歩いている。
男は絵馬掛けへと足を向けた。
歩きざまにすと手を伸ばし、鈴なりの絵馬へ指を遊ばせる。
木と木がぶつかり合う温みのある音が、無人の境内に響いた。
しばらくして、唐突に足を止めた男。
指に触れたひとつの絵馬を、なんと無造作にもぎ取ってしまった。
たてがみをうねらせて疾走する白馬が見事な筆致で描かれた絵馬を裏返すと、書かれていたのは――
絶対合格!
乾いた木片が石に打ちつけられるカァンという音が、夜の静寂に響きわたる。
男が大きく振りかぶり、手にした絵馬を渾身の力でたたきつけたのだ。
赤い目はいっそう炯々として、剣呑さが増している。
――と、目の輝きがいくぶんやわらいだ。
気を取り直した様子で、男は次の絵馬に手をかけ、裏返した。
痩せられますように
真顔でマジック書きされた文字を眺めていた男。
その表情が、凶悪に歪む。
目尻はつり上がり、口角が上がってニィと邪悪な笑みを刻んだ。
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