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翌日。
女はいつもの巫女服ではなく、パリッとしたグレーのスーツに身を包んでいた。
絵馬掛け横には小さな机と椅子を設置し、筆記用具やクリアファイルも用意。
男は怪訝そうな表情を隠そうともせず、女の後ろにたたずんでいる。
例の、コスプレ感満載の格好のまま。
見える者が見れば、さぞかし異様な光景だろう。
しかし、関係者以外の目には触れない存在なので、そこは問題ない。
昼前に、1人のくたびれた青年が神社へやってきた。
今日初めての参拝者。
10人中10人が知らないようなマイナー神社なので、滅多に人が来ないのだ。
青年の髪は、今日の強い風にあおられたのか乱れ放題。
顔は見事に土気色。
ヨレたスーツに身を包み、申し訳程度にワックスが塗られた靴はかかとがすり減っている。
たすき掛けにしたビジネスバッグの重みでか、体が大きく傾いていた。
「あのう、絵馬をください。
よく効くやつがいいです」
青年はうつむいたまま顔もあげず、椅子にかけた女に言った。
覇気のない声だ。
それでいて、鬼気迫るものも感じる。
追い詰められているのだろう、と女は思った。
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