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「弊社はまだ知名度こそありませんが、実は願いを叶えるという点においては、全国屈指の実力を誇っています」
「ほ、本当ですか!」
目を血走らせて叫ぶ青年に、女は大きくうなずいて見せた。
「ただし、祀っている神が、その……」
女は一瞬、自分の背後に鋭いまなざしを寄越した。
「少々面倒くさい手合いでして。
書類なんかのハンコがお辞儀しているみたいに傾いていないといちいち指摘してくる上司みたいなアレで」
「なるほど、わかります!」
今の今まで生気のなかった青年の顔が、にわかにパッと輝く。
対照的に男の顔はグッと渋みが増したが、気づく者はいない。
「なので、絵馬というシステムでは正直なところ、まかないきれないんですね。
そこで当社では、専用の用紙をご用意することにいたしました」
女はクリアファイルから紙を取り出して、青年の前に置いた。
年末調整や住民票の取得などを行った経験がある人なら、誰もが感じるようなザ・お役所感。
細かい記入項目が連続してあるだけで、思わず「ウワッ」と声が出そうになるアレ。
しかし青年は意外にも素直に受け取り、注意深く読み込んだ。
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