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「すみません、ここなんですが、就職祈願の場合はどれにマルすればいいでしょう?」
「あー……確かにないですね。
じゃあとりあえず、商売繁盛にマルしていただいて――」
女が言った、そのとたん。
背後で不穏な空気がとぐろを巻いたのを感じた。
嫌な予感とかそういうレベルではなく、イヤしかない気配に振り向くとそこには。
黒々とした鎧が連なったかのような体に、いやらしく赤い足を無数にうごめかせる巨大なムカデが、鎌のような大顎をガチガチ鳴らしていた。
女はわざとらしい咳払いをしてから振り返り、腹話術の要領でまくしたてる。
「見えないからって本性現すのやめてください。
本殿の周りハーブ園にしますよ」
すると巨大ムカデ、絵に描いたような「スンッ」ぷりで人間の姿に戻った。
どうやらそこらのムカデと大差ないらしい。
「――あの、それからどうすれば……?」
「あら失礼いたしました、変な虫がいたもので。
ええと、就職祈願ですよね。
まずは内定がほしい企業名を、こちらに3つまでご記入ください」
アドバイザー風の女にもっともらしいことを言われ、男は明らかに怯んだ表情になる。
「もっと大雑把じゃダメなんでしょうか?
IT系とか、広告業とか……」
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