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8
寺門をまいても、椎名はりんごの手を握ったままだった。
りんごも振り払おうとせず、黙って彼の後をついていった。
ふいに、椎名はりんごを振り返り、言った。
「ごめん、青木さん。さっき君が教室でしてた話、廊下で聴いてた」
「えっ……」
りんごは足を止め、青ざめる。
先程まで火照っていた顔が、一気に冷めた。
(聴かれてた……? あの話を?)
同時に、絶望した。
せっかく椎名への気持ちを再確認できらのに、嫌われてしまうと思った。
(もうダメだ。こんな重い女、受け入れてくれるわけない。やっぱり、私は幸せになんてなれないんだ……)
様々な想いと後悔が混ざり合い、涙があふれ出る。
すると椎名はりんごのもう一方の手も合わせて握り、微笑んで言った。
「俺、絶対に君のことを幸せにするから。過去のことなんか忘れて、俺とずっと一緒にいてよ」
「……いいの?」
「うん」
「本当に?」
「もちろん」
その途端、りんごの視界が明るく開けた気がした。
今まで悩んでいたこと、心配していたこと、恐れていたこと……全てが「大丈夫だ」と確信できた。
「だから……俺と付き合って下さい」
りんごは嬉しさと恥ずかしさで顔を赤らめ、頷いた。
「……はい。よろしくお願いします」
(完)
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