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「おはよう」
翌朝、りんごが学校へ行くと、下駄箱で椎名に声をかけられた。彼もちょうど登校してきたようで、下足を上靴に履き替えていた。
「お、おはよう……」
りんごは昨日のことが気になって、椎名の顔から目を背けた。
告白したのも逃げ出したのも自分のせいなのだから、どんなに気まずかろうが、罵(ののし)られようが、仕方ないことだと覚悟した。
すると椎名は優しく微笑み、こう言った。
「昨日告白してくれたの、本当に嬉しかった。君は『今のなし』って言ったけど、俺は君と付き合うの諦めないから。気が変わったら、いつでも言って」
「えっ」
りんごは耳を疑った。
今までそんなことを言ってくれる相手など、いなかった。
呆然としている間に椎名は教室へと去っていき、りんごは一人取り残された。
(どうしよう。やっぱり付き合って欲しいって言っちゃおうかな)
(椎名君は優しいから、きっと私を裏切らない)
(今度こそ、本当に幸せに……)
直後、りんごの脳裏に昔の記憶がフラッシュバックした。
廊下を歩くりんご。
階段の隅で身を寄せ合う男女。
りんごをあざけ笑い、陰口をささやき合う二人……。
りんごはかつての「傷」を思い出し、悲しげに目を伏せた。
「……やっぱりダメ。私は幸せになれない。なっちゃいけない。なれるわけがない」
りんごは靴を履き替え、とぼとぼと教室へ歩いていった。
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