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細かいことではあるけれど、行こう、じゃなくて、行きたい、と言うところがまた心憎い。行きたいと思っているのが俺じゃなく、広瀬さんみたいになるからだ。いや、俺が行きたいところに行きたいと最初から言っているのだから、それはそれで決して間違いではないのだけれど!
ちょっとだけ文句を言いたげな面持ちになった俺に気づくと、広瀬さんは言った。
「春になったら、桜を見にまたここに来たいな」
「…………」
話を逸らそうとしてもダメです、と澄ました顔で聞き流そうとしたけれど、当然のごとく失敗した。ので、いっそのこと思い切り破顔すると、俺は悪戯っぽく反撃した。
「じゃあ、その時は広瀬さんが食べたいものが食べたいです」
「ん、わかった」
「約束ですからね」
「約束」
そう言うと、広瀬さんが俺のすぐ横に並んだ。瞬間、するりと俺の小指に広瀬さんの小指が絡まる。
「ふやっ!?」
驚いて変な声が出てしまった俺に、広瀬さんはちらりと悪戯な眼差しを向けた。
「誰も見てないから大丈夫。洋食屋さん、連れてって」
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