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猫が喉を鳴らすような低い声で囁かれ、俺はちょっとだけ膨れつつも、小指に軽く力を込めてみせた。
「お店に着くまでですよ」
「ん」
広瀬さんは俺を甘やかすのも上手だが、俺に甘えるのも上手だ。どちらにしろ心臓には悪いが、俺はくすぐったいような気持ちで洋食屋さんまでの道程を歩いた。
*
洋食屋さんは人気店だったにもかかわらず、夕飯にはまだ少し早い時間だったおかげで、すぐ席に座ることができた。お店の外見も内装も、写真で見たよりレトロで暖かい雰囲気だ。クリスマスの飾りつけもさりげなく、落ち着いた感じが素敵だった。
「ここの雰囲気、すごく好き」
「初めて来たのに、居心地がいいですよね」
取り敢えず広瀬さんが気に入ってくれたようで、俺はほっとした。喫茶店で働いているせいか、広瀬さんは飲食店に入ると、俺が気づかないようなことまでよく見ている。メニューやサービス、店内の小物なども参考にして、取り入れたりしているらしい。
「九条くんは何にするの?」
「俺はグラタンにします。広瀬さんは?」
「俺はビーフシチュー」
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