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だから彼の口から聞かない限り、誰に何を言われてもどんな証拠を突きつけられても、そんな事実は無いんだ。
「たぶん、弟くんの事は何かの間違いだと思うから」
「ポルト君は嘘を吐くような子じゃありませんよ」
「あ……、その子が嘘ついてるとかじゃなくて、その……。うまく言えないけど、事実とはちょっと違うんじゃないかな」
どう説明してもわかってもらえる自信がない。
案の定、皮肉な笑みを浮かべるフルウさんを、コウモリたちの炎がゆらゆらと照らし出す。
「何も違いませんよ。初めてだったポルトくんを弄び、かなり強引に抱いたようです」
「抱いた……、え?」
突然この場に落ちてきた、決定的な違和感。
「労りの欠片もなく乱暴に貫き、引き裂いた……。ですがジェダ様はそれを悦びに換える術を持っている」
独り言のように、どこか陶然とフルウさんが呟く。その言葉にボクは思わず彼の腕をギュッと掴んだ。
「……どうしました?」
「え、えと……! やっぱりそれは、ジェダさんじゃないよ……」
怪訝にひそめられた細い眉に、ボクはなおも続ける。
「だって。……ほら、フルウさんだって知ってるでしょ? ジェダさんはソッチじゃない……!」
「……え」
恐る恐る聞いたことがある。ボクが受け入れる方も覚えなければいけないのかと。
するとジェダさんは、
『ふざけんな。後にも先にも俺はコッチだけだ。お前は覚えなくていい!』
と、かなり食い気味に言い渡された。
「暗い部屋で、誰かがジェダさんの名を騙って……顔は見えなかったんじゃない!?」
「さあ……そこまでは」
詰め寄るボクにフルウさんが言葉を濁したその時、岩場の外で小石がジャリと小さく音を立てた。
「……っ!」
「ミンクくん、誰か来ます。……この話はまた後で」
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