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「……ポルトくんが助かっても」
今を逃したら、きっと何らかの策を講じられてしまうだろう。
「このままじゃボクは、ルークスを絶対的な存在にしてしまう。殺戮を繰り返し、死をも恐れない脅威の夢魔に」
逃げても、召喚されたら戻る他はない。生涯ボクはルークスの道具であり、そして……人形。
「ならば! あの条件を飲めば良いではないか……お前次第で我はもう殺さぬと……!」
「ルークスを憐れむことはあっても、愛することはできない」
「……ッ……!」
たとえルークスが妖魔ではなく、天使でも神さまだとしても。
「もうボクの魂はジェダさんの色になってるから……無理なものはムリ」
出会った瞬間からボクの全部が彼に染まっていって、今は完全にジェダさん一色。この先はどんな色にも染まらない。
本当は偽りの愛を誓ってルークスを止める事も考えてみた。でもきっと絶対に、この気持ちは隠し切れない。……騙せない。
「召喚霊である以上、ボクはルークスに逆らえない。一生人形として生きて殺戮を目の当たりにして、ポルトくんも救えない。そんな事の為にボクは生まれてきたんじゃない。……だから」
ジェダさんの色のままルークスに囚われた魂。せめて最期にその魂を開放したい。
「ポルト! ポルト……っ……、あぁ、あああ……!」
アモネさんがポルトくんの手を握って嗚咽を漏らした。その手も爪の先から霧となって消えていく。もう時間がない。
(ごめんね、ジェダさん……)
ドームの向こうに心話で語り掛けた。
彼はすぐに顔を上げて、ボクを食い入るように見つめてくる。
【ミンク……やめろ】
胸に響くその言葉と、今にも崩れそうなジェダさんの心。それを感じ取れただけでもう充分。
ありがとう。
ボクはあなたに幸せを教えてもらった。それだけでも生まれた意味がある。
「……契約」
ボクはローブの腰紐を解いて、下腹部の魔法陣に手を触れた。
”コアクトス・ディスペラ”。たったこれだけの宣言でボクは夢魔から開放される。
迷いなんか、……ない。
「やめなさいミンク! 頼む、やめてくれーー!」
ネフラさま、大好きだよ。育ててくれて、守ってくれてありがとう。
「……お前は俺の飼いウサギだろ……」
もうジェダさんの声は聴かない。耳にも心にも蓋をして。
「そんな勝手、許さねぇええ!」
心を澄ませて、最期の宣言を。
「強制・解……」
「──コアクトス・ディスペラ!!」
高らかに宣言したのは、──ボクの真正面。
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