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(え……)
額を押さえる彼の指の間から、ガラスが砕け散るように光の欠片が霧散する。
それは紛れもなく、ボクの魔法陣の消滅。
「な、なんで……ルークス!」
彼が、額から外した自分の手を見つめポツリと呟いた。
「……わからぬ」
掠れるテノールの声。
「ミンクが死ぬのが……嫌だった」
「……!」
「だがもう、お前は我のモノでは……」
ルークスがクシャッと顔を歪めた。まるで子供が泣くように。
底知れぬ深い闇を思わせたルークスの魔力が、みるみるうちに萎んでいく。
(ボクより先に宣言した……という事は)
強制解除をしたのはルークス。魔力やステータスの全ては枯葉一枚ほどの重さとなり、彼の命の器ももう。
(もって数日……)
これまでボクの意識を覆い尽くすほど大きく感じていた彼が、今はこんなにも小さい。
その時、ボクたちを取り巻いていた審判のドームが音もなく掻き消えた。
「ミンク!」
ジェダさんとネフラさまがこちらに駆け寄ってくる。
「……行って、ルークス」
「なに……?」
「ここから消えて! 早く!」
「くっ……!」
ルークスがローブを翻し、姿が滲むように見えなくなっていく。
その気配が完全に消えたのと同時に、ネフラさまが走って来た勢いそのままにボクを抱きしめた。
「ああミンク、ミンク! なんて無茶を……いま宣言したのは夢魔の方だね? よかった……!」
「…………」
声を詰まらせるネフラさまの肩越しに、歩調を緩めたジェダさんが見える。
「あの野郎は……夢魔はどこへ」
「逃げたよ……。それより今はポルトくんを!」
頭がぐちゃぐちゃで心の中もぐちゃぐちゃ。でもまずやらなきゃいけない事がある。
「アモネさん、下がってて!」
慌てて駆けつけた時のポルトくんは、手足がうっすら霞んでいるもののまだ身体は残っていた。
「ポルトくん……ごめんね。どうか戻ってきて」
彼の胸元に両手を押し付け、自分の魔力をそこに集める。……けれど心が乱れて出来る気がしない。呪文が唱えられない。
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