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Scene:22. お別れの星
「…………」
またいる。
薄く開いたドアの陰に隠れてはいるけれど、その気配はむしろ ”気づいて” と全身で訴えてる……ような気がする。
『ぴょ? またドアの外に来てる』
「あ……ラピも気がついた?」
コソコソと小声で膝の上の二代目と囁きあう。
『よっぽどミンクが気に入ったんだぴょ』
「う……ん、そうなのかな」
ボクは小さくため息をついて、ドアに向かって声をかけた。
「……えと。ポルトくん入れば? そんなとこに隠れてないで」
ぴゃっ!とドアの向こうでラピのような悲鳴が上がる。
かくして、おずおずと遠慮がちに部屋に入ってきたポルトくんは本日何回目の訪問だろう。
「あの……ミンクさん」
「今度はどうしたの? さっき持ってきてくれた寝る前のホットミルクはもう頂いたし、新しいナイトローブはちゃんと着てるよ、ほら」
ボクはベッドから立ち上がってクルリと回って見せた。
他にも疲労回復に効く薬草だの、安眠できる枕だの、何かにつけてやってきては甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
「……僕、まだちゃんとお礼を言ってない。兄さまにも叱られた……」
「え?」
ポルトくんがもじもじとローブの裾を弄んで俯いた。
あの夜、この子を蘇生の魔法で呼び戻した後、ボクはそのままジェダさんの館でお世話になっている。
……というより、緊張の糸が切れたのか、それとも異空での監禁生活が堪えたのか、その場で倒れてしまったのだ。
「原因不明の病気で死にかけてた僕を、ミンクさんがすごい回復魔法で助けてくれたんだよね? でも代わりにミンクさんの寿命が減っちゃって……」
アモネさんがそう説明したんだろう。ポルトくんには何も知らせなくていいって言ったのに。
「だから二日も経つのにまだ元気がないんでしょ? 僕のせいで……」
「ち、ちがうよ! 全然元気だよ、ただジェダさんが心配症で」
そうなのだ。彼が大事を取れと言って王都の城に帰るのさえもまだ許してくれない。
(……もう二日も経ったんだ……)
時は何事もなかったように過ぎていく。でもボクの時間は、あの時から止まったまま。
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