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ピクンと傍らのジェダさんの耳が動く。
「ジェダさまの怖い顔に飽きたら、僕が嫁にするね!」
「は……?」
「ゴルァ! このガキ、黙って聞いてりゃ……!」
ぴゃっと逃げるようにドアから消えたポルトくん。さらに ”バーカバーカ” と罵る高い声が廊下を遠ざかっていく。
考えてみたら彼はアモネさんの弟、本質はタフで逞しいのかも。
「わあぁ……プロポーズされちゃった」
「…………」
かたや、やっと二人きりになれたのに。
「……寝る」
ソファに横になり、モソモソと毛布をかぶって ”就寝” を決め込むジェダさん。この人の方がよっぽど繊細だったりする。
「もう、冗談ですってば。そんなに怒んなくても」
「別に怒ってねぇ。お前ももう寝ろ」
そう言って背中を向けても、彼の瞼は閉じていない。
「もしかして顔が悪鬼とか肉食獣とか、言いすぎました?」
「そんなのどうでもいい」
「…………」
ボクはどこか頑なな背中を見つめ、同じソファの端っこにストンと腰を下ろした。
(ジェダさん……)
「……お前」
心話は使ってないのに、ボクの声が聞こえたみたいに彼が応えた。
「いったい何を考えてる?」
「え……」
「はしゃぎ過ぎだ。違和感しかねぇ」
ドキンと胸が鳴って、急に息苦しくなる。
「……やっとジェダさんと居られるようになったんだよ? なのに、はしゃいだらおかしい?」
「……そうか。ならいい」
ボクたちの間にぎこちない沈黙が流れる。
こんなの嫌だ。
こんなに傍にいるのに、こんな言葉に詰まるようなもどかしい想いでいるなんて時間が勿体ない。
「ジェダさん……こっち向いて」
「…………」
ため息交じりに身体を起こした彼が、手を伸ばしてボクを胸元に引き寄せた。
胸の鼓動が直接耳に響く。その音を、実感を、心に刻みつけたい。
「……身体は、もう本当に大丈夫なのか」
「うん……」
そんなのなんともない。だってボクは。
(強制解除しなくて済んだんだから……)
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