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個々の存在を顕す魔法陣は、いわばその者の証。契約を望まれた者がそれを示した瞬間、己の全てを賭けた戦いが発動する。
『断る……と言ったはずだ』
敗北すればその者を召喚主と認め、従わねばならない。
『ならば皆殺し、とこちらも言ったはず』
『……なめるな! 夢魔!!』
叫びと同時に瑠璃色の光と紫黒の闇が膨れ上がり、激しくぶつかり合った。両者の放つその魔力は拮抗し、せめぎ合いながらもさらに大きく膨張していく……やがて。
『……ッ……!!』
弾け飛んだのは──瑠璃の光。
望まぬ者に己の力を差し出すくらいなら。そして相手の力量が上と感じたなら……彼らはみな魔法陣を晒すことなく消される方を選ぶだろう。
それが精霊たちの誇りであり、その矜持があればこそ世界はかろうじて均衡を保っているのだから。
(せめてひとつ……)
砕けた瑠璃の光が最期の閃光を放ち、儚く消える。さらに肥大した紫黒の闇が里を飲み込み、高潔なる魔精霊たちは消滅させられてしまった。
『……愚か』
夢魔が黒いフードを脱ぐ。現れたのは背筋が凍るような美しき顔。彼の顔と身体は、敵対する相手にとって最も魅力的で官能的な相貌に自在に変化するという。
『死を操る力がありながら、なぜそれを受け入れる。真逆の選択にどんな意味があるのか』
夢魔もまた魔精霊であり、生ける者の欲望……中でも色欲、情欲、肉欲を糧とする。
彼に誘惑され、狂うほどの快楽を知った者は霊魂が腐敗し正気を失う。その熟した全てを食らって夢魔は力を増幅させていく。
『まあいい。根絶やしにしたのだ、蘇生の魔法が他の者に渡ることもない……』
黒のローブを翻して、彼はその場を立ち去った。
”根絶やしにした” のだと、露ほども疑わないまま……──。
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