36.俺が待っていること、忘れるな

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 英児が俺の車で乗りたいのがあったらいつでも乗っていいからな――と言ってくれてはいたが、この赤い車の許可を取ったことがない。英児もあまり勧めてこない。初心者の琴子には無理だと思われている気がする。そして、英児があまり乗らないから、言い出せなかった。でも乗ってみたくて。乗ってみたくて。結婚してしばらくしたら思い切って借りようと決めていた。それが今日。  矢野さんが青ざめる。そして二階に向かって叫んだ。 「おーい、英児! カミさんがハチロクに乗っているぞ!!」  その一声一発で、琴子の旦那さんがリビングの窓に姿を現す。 「こ、琴子、待て!」 「これ、借りていきますね!」  赤いトヨタ車の運転席から二階にいる旦那さんに琴子は手を振る。  今日の相棒にと琴子が選んだのは、トヨタ車のカローラレビンAE86。通称『ハチロク』、英児のレビンは真っ赤な車。それを旦那さんの許可なしに、ガレージから出してしまったところだった。  旦那さんに捕まらないうちにと、琴子は『ハチロク』のアクセルを踏もうとした。 「待てと言ってるだろが、琴子!!」
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