1.スカイライン。許さない!

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1.スカイライン。許さない!

 今日こそ『煙草』を買ってやる。  吸ったことなんてないけど、買ってやる。  ちらほらと桜が咲き始めた雨上がりの夜、帰り道。  琴子は古い煙草店の自販機の前に立っていた。  だけれど、どれがどれなのか分からないぐらい並んでいる。  彼が吸っていた煙草の箱、どれ? 『あった』。  最上段に君臨しているダンディな箱。琴子は握りしめていた小銭を自販機へ向ける。 「タスポってなに」  そういえば。いつからか自販機で煙草を買うには成人であることを証明するICカードが必要になったんだっけ? じゃあお店でと言いたいが、買う姿など人に見られたくない。  何故、煙草かって。吸ったこともないのに、どうして煙草なのかって。  説明しても『理由が幼稚すぎて』自分自身が情けなくなる。でも、そうでもしないと『今の私、壊れそう!』。そんな心境だった。  自販機にまで逃げ場を拒否されたと思ったら、これまた馬鹿馬鹿しいことだけれど、本当に涙が滲んできた。
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