1.スカイライン。許さない!

2/7
3535人が本棚に入れています
本棚に追加
/479ページ
 春の夜風に痛んだ茶色の毛先と、買ったばかりのトレンチコートの裾がなびく……。静かな郊外、車も少なくなった国道沿い。駅から歩いて数分ほど。昼は閑静な住宅地かもしれないが、夜は外灯も少なく寂しいところ。ますます心が軋む……。  ひとりだからと思って存分に感傷的になって大声で泣こうと思った……。  ほら、涙がこぼれてきた。『うわん』て泣いてやる! 「う~~、う、――う、うっ」 『うわーーん』と悲痛の声がそこら中に響き渡るはずだったのだが、キキキッと荒っぽい音が琴子の声をかき消し、静かな国道の空気を震わす騒々しさが沸き起こる。  驚いて振り返ると琴子の背後に、ギュルギュルとタイヤを鳴らす真っ黒い車が停車した。  びっくりして涙も悲痛の声も止まる。茫然としていると、運転席から作業着姿の男性が降りてくる。  人気もない夜道に突如として出現した、妖しく黒々と光る車。しかもその車、すっごく車高が低い。暗い中でも緑色のメーターライトだけが光っている運転席。激しい音楽。暗闇に現れた黒い車なのに、そこが一番煌々と煌めく銀色のホイール。いかにも『走り屋』ぽい車!!
/479ページ

最初のコメントを投稿しよう!