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恋人の彼女が歓迎されて嬉しい彼氏としての気持ちは本物。でも、もし今の幸せな日々がある日突然なくなったら……? その落差は以前の苦い思い出以上になることだろう。英児はそれを恐れているから、全開で喜べないでいる。
そんなことになりたくないと琴子も思っている。なるものかと。でも、そこは男と女。何が起きるかわからないことを、この歳になると苦いほど知り尽くしているから、喜ぶ心にブレーキがかかる。だから最後の大きな一歩がなかなか踏み出せない警戒してしまう、英児も琴子もその心境はきっと同じなのだ。
もう若さという勢いがないからこそ。私達は思いっきり喜べないでいる。どこかで冷めた心を保って。そうして今ある愛を守ろうとしているのだって。
―◆・◆・◆・◆・◆―
店を閉めた後、今夜の夕食は英児と車でドライブがてら出かけて外で楽しんだ。
そしてまた、この二階自宅でふたり――。
夜風にざざっと団栗の葉のさざめく音が、昼間よりずっと近くに聞こえる。
静かな郊外の空港町。ジェット機の飛行音もない、営業中の喧騒もない。風と葉と、そして時折、夜鳥の鳴き声も遠く聞こえる。
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