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彼が胸元から離れ、上になっている琴子を見上げ頬に触れる。その手が指先がゆっくりと降りて琴子の唇に触れた。
日々車を愛している指先が、ちょっと試すかのように琴子の唇を割り開こうとしている。いつもはキスで唇で舌先で、女の唇を奪う男。今夜は指先で琴子の唇を侵そうとする。そんな男の指先を、今夜は琴子がゆっくりと口に含んで甘噛みをする。まるでいつも奪われる仕返しをするかのように下になっている男を見下ろしながら噛んだ。
男のどこか満足した悦びを滲ませる目元、それを見てさらに女は男の長くて太い煙草の匂いがする指をゆっくり吸った。
ふうっと英児がひと息。指先を愛撫される男のもう一つの手が、ゆっくりと琴子の胸の膨らみを包んだ。
「負けない女になってきたなあ……」
英児は言う。可愛く愛されるだけの女じゃなくなってきた。少し前、彼が琴子を抱きながら狂おしい声でそう耳元で囁いたのを、しっかり覚えている。
タキタの女だもの。車だけじゃない。貴方にも乗り上げて、私、貴方のこと愛していく。
言葉にしないでそう見つめて心で唱える。それが、やっぱり英児の目にはちゃんと伝わる。
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