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それを英児に知らせると、やはり『悪いなあ……』と戸惑っていた。
『でも。食事が終わって、俺の家でくつろいだ後、琴子すぐに眠ってしまうだろ。せっかくぐっすり眠っているのに、帰る時間だぞ――と、起こすのが可哀想でもあるんだよな。俺だって琴子と朝まで眠りたい』。それも俺の気持ち、本心でもあると英児は言った。これまで英児は、どんなに夜中でも大内宅まできちんと琴子を送ってくれていた。
だが、英児も琴子と同じ。母を独りにすまいと案じながらも、とうとう母の遠回しの許可を免罪符にしてしまった。昨夜は琴子を起こさずにそのままそっと眠らせてくれたようだった。
彼が目覚めに持ってきてくれたオレンジをつまみ頬張りながら思う。それは琴子も同じ。このままずっと一緒にいたい、眠ってしまいたい。彼と朝を迎えたい。しかも気怠くぐったりとした朝を。それがいま、叶っている。
英児も熱いコーヒーを一杯、自分で作って持ってくる。そして一緒に冷えたオレンジを頬張って笑顔を交わし合う。
複雑な心境ではあっても、やはり『二人で迎えた初めての朝』は幸せ。英児もその気持には敵わないようで、もう何も言わなくなる。
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