36.俺が待っていること、忘れるな

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 ガレージには顧客の車に代車。そして滝田社長の愛車が並んでいる。黒く光り輝くスカイライン。そして琴子の愛車となった銀色のフェアレディZ。奥には紺色のシルビア。だが琴子は愛車のゼットのそばに行かなかった。 「今日のお相手、よろしくね」  赤い車体を撫で、琴子はその車のキーを運転席ドアに差し込んだ。  エンジンをかけ、クラッチを踏みギアを動かす。ドルンとエンジンが唸ると同時にアクセルを踏みハンドルを切った。  ガレージを出た時、ちょうど矢野専務がピットに入るところ。琴子はいったん停車をして運転席のウィンドウから叫んだ。 「専務、おはようございます。行ってきます」 「おう、琴子。気をつけ……」  乗っている車を見て、矢野さんもぎょっとした顔。 「おいおい。琴子。それちゃんと旦那の許可とってんのか」  琴子もちょっと気後れして聞き返す。 「どれに乗ってもいいと言われていますけれど? やっぱりダメでした、これ……」
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