3551人が本棚に入れています
本棚に追加
/479ページ
彼の本気の叫び……。それが判ったから、黙って旦那さんの愛車をくすねていこうとした琴子は流石にブレーキを踏んだ。
バックミラーに、紺色の作業着をざっと羽織りながら駆けてくる英児の姿が映った。
やっぱり、まだお前には無理って怒られるのかな。黙って乗っていかないと、いつ乗せてくれるかわからないんだもの。
貴方の愛車、私も同じように感じて乗りたいだけ……。
ぶすっとした不機嫌そうな顔で英児がレビンにやってくる。だが矢野さんもはらはらした顔で英児の後ろにくっついてきた。
「英児、もう諦めろや。おまえのカミさんもすっかり生粋の車好きなんだから、好きなだけ乗せてやれよ」
「うっせいな。親父はあっちに行ってろ。俺と女房の問題だ」
「あんだと、お前がつまんないことでガキみたいに憤慨するからだろ。それにおまえ、どの車も乗っていいって許可してるんだろ」
矢野さんが新婚夫妻の間で『車が原因の喧嘩』にならないように気遣ってくれているのがわかる。
眉間にしわを寄せ、強面の旦那さんがレビン運転席の赤いドアを開ける。
「ご、ごめんなさい。これだけまだ乗ったことがなかったから……」
最初のコメントを投稿しよう!