1.スカイライン。許さない!

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「おかえり。今夜は帰れたんだね」  母だった。杖をつき、片足を引きずってやってきた。 「琴子、それどうしたの」 「うん……車に泥水を跳ねられちゃって」 「酷い車だね! 待っていなさい、タオル持ってくるから」 「い、いいわよ、母さん。自分でやるから、座っていて」  だが、母は『いいの、いいの』と言って、片足を重たそうに引きずりながら、でも嬉しそうな顔で行ってしまった。  父は数年前に他界した。今はこの家で母娘二人で暮らしている。  昨夜はシャワーも浴びていない。徹夜だった。  折れそうな心を奮い立たせ、この年度末の忙しい時期を乗り切ったばかり。その最後が会社で徹夜、明けたその日一日も夜まできっちり残業。ただいま帰路につく。  化粧が溶けた顔に、ばさばさになった油っぽい髪。ずっとカラーリングもしていなくて、茶色と黒色が生え際で目立ち始めて……。ボロボロだった。  女は綺麗に整った時、凛と出来る。その身なりも整えられない押し迫った状況を強いられ、無事に帰還したところだった。
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