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私は父の言葉を反芻する。
「返事が…?」
父は私の顔を見た。その目元には、うっすら涙が溜まっているように見えた。
「出してしまったら返事が来ることを期待してしまうから、と言っていた。あくまで勝手に書いていたいんだと。お前に、押し付けたい訳ではないんだと」
さほど大きな音量ではなかったはずの父の言葉が、頭の中で大きく響く。
「返事くらい、書いたのに…」
言いながら、止まったはずの涙がまたぽろりと頬を伝って落ちるのを感じた。だけど、と思った。果たして本当に、当時の私は返事を書いただろうか。忙しさにかまけて、母の愛をおざなりにするようなことは、本当になかったのだろうか。
分からない。自信がない。そんな自分が情けなくて泣けた。
「書いてやればいいじゃないか」
父が私を見て言った。
「今から、書いてやればいい。俺が死ぬ時、一緒に持ってってやるよ」
そう言って照れ臭そうに父が笑ったから私は泣きながら
「お父さんは、長生きしてもらわないと困るー」と言った。
父はそれを聞いて
「もちろん今日明日の話じゃねえけどよ」と涙を流しながら笑った。
私もそんな父に釣られて「へへっ」と笑った。
家に帰ったら、母への手紙を書こうと決めた。書き出しは、なんにしよう。
「大好きなお母さんへ」に続く文章を考えながら、私は手元の母からの手紙をぎゅっと胸に抱きしめた。
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