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⑩
かたん、と音がして、ふと我に帰った。
涙で滲む視界に映るのは、気まずそうな顔をした父だった。
「見つけたか」
私は鼻水をすすって、コクリと頷いた。
数日前に母の葬儀を済ませ、遺品の整理でもしようと母の大切にしていた箪笥の引き出しを開けた所、たくさんの手紙が出てきた。封筒には私の名前。けれど住所も書いていなくて切手も貼っていない。気になって中を見たら、紛れもなく私宛の手紙だったのだ。
「なんで」
思いの外声がかすれてしまったので、咳払いをして言い直した。
「なんでお母さんは、手紙、出してくれなかったんだろう」
せっかく書いてくれたのだから、受け取りたかった。当時でしか持ち得ない思いもあっただろう。こんなにありがたい母の想いを、私は知ることが出来なかった。
父は天井を見た。私もつられて、木目がお化けに見えると昔怯えた天井を見る。天井のお化けと目が合う。
「聞いてみたことがある」
父は天井を見上げたまま言った。私は父の顔を見る。
「どうして出さないんだ、って」
「そしたら?」
私は焦って先を促す。
父はため息をついて言った。
「返事が欲しくなるからだ、と」
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