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東京の隅田川沿いに聳える三棟のタワーマンション。
夏は自宅のテラスから隅田川花火大会を一望できる大人気のマンションで、およそ千八百世帯が生活している。
三棟は正三角形の形で建ち、三角形の中心にはショッピングモールと大きな広場があり、天気が良い日はたくさんのファミリーで賑わう。
とくに、広場の中央にある大きな噴水は、ときどき虹がかかる映えスポットで、近所の女子高生がわざわざ写真を撮りに来るほどの人気だ。
「ねぇ、ぼくたちなに見てるの?」
噴水の前の芝生に、小さな子どもが数人座り噴水の方を熱心に見ている。
みな笑顔で、ときおりきゃっきゃと歓声を上げている。
なんだろうと思った女子高生が噴水に目を向けるも、子どもがはしゃぐようなものは無い。不思議に思って訊いたのだ。
「ねぇ、お姉ちゃんにも教えてよ」
男の子はちらりと女子高生を見て「えー、ないしょー」といったきり、噴水に顔を戻す。
女子高生は首をかしげながら噴水を後にしたが、背後から子どもたちの歓声が聴こえ、振り返った。
しかし、噴水が勢いよく出ているだけだ。
女子高生は狐につままれたような面持ちで、帰っていった。
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