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一七歳になった清太郎は、肉体労働をしながら、なんとか生計を立てていた。
一度も墨田区を離れず、週に一度の休みには、日がな一日節子を探して廻った。
そんなある日、節子と一度だけ、秋葉原でサーカスを観たことを思い出した。観たといっても、サーカス小屋に忍び込んで、物陰から盗み観たのだが。
それでも節子は目をきらきらさせて、思わず「わぁ」と声を上げるから、怖い大人にみつかるんじゃないかと、肝を冷やした。
なかでも節子は、鼻の頭が赤いピエロが気に入ったようで、ピエロさんまたみたいと、しょっちゅうねだってきた。
あるとき清太郎がふざけて、鼻の頭に紅を塗り、拾ったボロ布をマントのようにして戯けてみせたら、節子はきゃっきゃと声を立てて喜んだ。
—— そうか! 俺がピエロになって有名になりゃあ、節子の耳にも入るかもしれん
そう思いついた清太郎は、仕事が休みのたびにピエロの格好をして、街角に立ち続けた。何十年も、この世を去るまでずっと。
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