7

1/1

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

7

 一七歳になった清太郎は、肉体労働をしながら、なんとか生計を立てていた。  一度も墨田区を離れず、週に一度の休みには、日がな一日節子を探して廻った。  そんなある日、節子と一度だけ、秋葉原でサーカスを観たことを思い出した。観たといっても、サーカス小屋に忍び込んで、物陰から盗み観たのだが。  それでも節子は目をきらきらさせて、思わず「わぁ」と声を上げるから、怖い大人にみつかるんじゃないかと、肝を冷やした。  なかでも節子は、鼻の頭が赤いピエロが気に入ったようで、ピエロさんまたみたいと、しょっちゅうねだってきた。  あるとき清太郎がふざけて、鼻の頭に(べに)を塗り、拾ったボロ布をマントのようにして(おど)けてみせたら、節子はきゃっきゃと声を立てて喜んだ。 —— そうか! 俺がピエロになって有名になりゃあ、節子の耳にも入るかもしれん  そう思いついた清太郎は、仕事が休みのたびにピエロの格好をして、街角に立ち続けた。何十年も、この世を去るまでずっと。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加