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かみさま
「かみさま、かみさま…………ねぇ、かみさま…………」
小さな呟きは、すぐに空中に消えていった。
メインストリートをひとつ奥に入ると、すぐに入り組んだ路地に繋がる。この街の路地はまるで迷路だ。
そんな細い路地の先に、ひとつの店があった。店舗と住居とがひとつになっている小さな平屋の建物だ。
扉脇にはオレンジの灯りをともすのランプ。
ランプが点っていると扉についている小窓にぶら下がる札が「OPEN」を知らせる。その札には、他に注意書きがされていた。
『闇の在処については、お答えいたしません』
路地をいく人の姿があった。青年というには幼く、少年というには大人に見える男の姿だった。ここがどこなのかわからなくなっているのか、眉を曲げ、辺りを窺っている。
ため息をついて項垂れたその時、明るい声が近づいてきた。
「お兄さん、迷ってます?」
男の優しい声だった。
助かったとばかりに顔をあげると、そこには、茶色い髪と同色の瞳を持つ、そこそこの背丈の男がいた。声と同じに明るい雰囲気を纏わせていた。
「あ、あぁ……迷ってます。店を探していて。この辺りかと思ったんですけど」
「どういう店ですか?」
「あー……でも、時間が……」
「捜し物が目的なら、この先ですよ」
「……この先」
繰り返して、言われた先を見つめる。
「……明日にします。ありがとう」
去っていく探し人を見送って、男はにこりと笑っていた。
「いつでもどうぞ」
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