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辺りは薄暗くなっていた。
探し人と別れた男は、先程自分が示した場所へと向かう。
しかし、店の入口の扉には「CLOSE」と書かれた札が内側からかかっていた。
「え、早くない?」
仕方ない、と、男は来た道を少しばかり引き返して、玄関に回った。
「ただいまー」
「偉いじゃないか、楓。ちゃんと玄関から入ってきたね」
おかえりより先に、中にいた少年に意味ありげな笑みを向けられて、楓と呼ばれた男は、あからさまに不機嫌になった。
「がっちり鍵かけといて言うセリフ?」
「いつまでも学ばないからだよ」
「せっかく客がいたのに」
残念と言う響きに、少年はクールな表情を返す。
「宣伝しなくて結構だよ」
「商売するやつの言うセリフ?黒樹は無欲というか、」
「というか、なに?無欲だよ。楓と違ってね」
「迷子だったんだよー、いつもみたいに。もっとわかりやすいところにしたら?」
黒樹は、深いため息をついた。
「目立ちたくないのに、表に出ていってどうするの?」
楓は眉を曲げて宙を睨んだ。黒樹の思考がわからない。
「考えなくていいよ。どうせわからないから。それより、今日の食事は楓が作るんだけど。そっちを悩んでくれる?」
「それなら、食べに行こう!」
「却下」
「えー。美味しいお店があるのに!行こう、黒樹!」
「出かけない。作って」
黒樹の眉間に、深い深いシワが刻まれていた。
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