0人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日は、雨が降っていた。
しとしとと止むことなく続く雨だった。
こんな日でも、黒樹は店を開けている。客が来ることは、いつもより少ない。だから、黒樹の機嫌はよかった。
午後3時、コーヒーを飲む黒樹は、美しい微笑みを浮かべて、正面の窓から雨の路地を見つめていた。
そして、ゆっくりと目を閉じる。
静かな空気を感じながら、ゆったりとした時間を楽しんでいた。
楽しんでいた、のに――――。
黒樹は、眉間にシワを寄せ、ため息を付いた。
リンと重たい鈴の音がしたのはその後で、控えめな声とともに、男が一人入ってきた。
「……すいません、今、いいですか?」
「どーぞ……」
渋々受け入れて、黒樹は、椅子に座り直した。男とともに入ってきた人物を睨みつけた。
「おかえり、楓」
いつもより低い声、いつもより冷たい瞳、それに臆することなく、男の後ろから入ってきた楓はニコリと笑った。
「たーだいま、黒樹」
黒樹の不機嫌を正面から受けてなお、楓は非常に機嫌がいい。
楓は一緒に来た客を黒樹のいる丸テーブルへと案内して、自分は黒樹の後ろに回る。
「昨日話した、迷子になってたお客さん連れてきた」
「宣伝しなくて結構だって言わなかった?」
二人のやり取りを、オロオロと聞いていた。
「あの、すいません。都合が悪かったですか?」
「いや、」
それでも面倒だという声をして、黒樹は答えた。
「君は悪くない。僕の不機嫌の全ては、ここにいる楓に向けてるものだから」
最初のコメントを投稿しよう!