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「ただいま」
仄暗い玄関を抜け、舞雪は弱々しく声を出す。母親はまだ仕事から帰ってきていないのだろう、握っていた鍵を靴箱の上に置き、誰もいない部屋に入る。
白いリビングテーブルに保険証と医療証を並べて、食器棚へ向かう。グラスを取り出し、冷えていないミネラルウォーターを注ぐ。今日処方されたばかりの薬を取り出し、医師に言われたとおりに飲む。
薬を飲んだだけで、すぐに変わるとは思わなかったけど、飲まないよりは飲んだ方がいいことくらい、舞雪にもわかっている。
ふぅと一息ついて、カーペットの上にごろんと横になる。混沌とした頭の中を隠すように真っ白な霧が、脳裡を優しく染め上げていく。このまま少し眠ろうかな、と、うつ伏せになって。
「あ」
黒いテレビボードの下で、埃をかぶっている物体を見つける。
舞雪は匍匐前進して、それを手にとる。
木製の、フォトフレームだった。ガラスの向こうには、古ぼけた写真。
……お父さん、だ。
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